(これからどうすればいいの……?)
まるで捨て犬になった気分だった。右も左も分からない。
通夜も葬式もすんだ今日、あかねは、父の会社の役員達に呼び出されていた。
そして、会社が抱える借金と負債の額を知らされる。
父は一人娘であるあかねに会社を遺した──つまり、資産があればそれはあかねの物だが、逆に借金があっても、それはあかねの物になるということだ。
会社を立て直す必要がある。
それは当然、誰もが望んで止まないことだ。倒産してしまえば、社員は全員明日をも知れぬ身になってしまう。
昨今、特に中年以降の社員たちが新しい就職先を探すのは難しい。全員を見知っている訳ではないが、その中の何人かは、父を通してあかねも親しくしていた。いい人達ばかりだ。
彼らを助けたい。しかしどうやって?
答えは簡単ではない。
合併、融資、などといった単語が幾つか浮かぶが、どれも現実的ではなかった。
もちろん今、会社を実質的に動かしているのは社員役員達で、あかね本人は、名義的に社長の椅子を預かりながらも、ただオタオタとするしかないのが現状だった。
それでもやはり、最終的な責任はあかねの肩にかかっている──社長令嬢として、ある程度の教育は受けてきた。
会社の運営も、知識として必要なことは一通り教わっている。
現場も父に付いて少しは見てきた。しかし、あかねはどうにも社長という器ではないのだ。それは性格的なもので、大事にされて育ったせいか、あかねは穏やかで柔らかい控えめな女性だった。
それはもちろん人としての美点にはなろうが、これから立て直さなければならない会社の社長として、適任とは言い難い。
(三島さんに譲れたらいいのに……わたしは、社員として頑張るから)
あかねはそんな風に思っていた。
三島は、父が最も頼りにしていた右腕だ。父が亡き後も、同じ様にあかねをもサポートするつもりでいてくれているらしい。
そういう意味では、あかねはいつも恵まれている。
何不自由なく育ち、父にとって遅く出来た子だった事もあって、とても大事にされてきた。今も、会社は危機に立ちながらも、役員や社員達はあかねに協力しようとしてくれている。
なんとか出来たら、なにか、彼らを救えるチャンスがあれば──。
あかねはそう必死で悩みながら、ビル街を重い足取りで歩いていたところだ。
『その』声が聞こえたのは――。


