料亭は街の中心から少し外れていたので、確かに、道は静かで食後の散歩をするにはちょうどよかった。風は穏やかで、宵口の冷めた空気が心地良い。
あかねは癖で、少しうつむきながら歩く。
逆にケネスは長身をさらに高く伸ばし、真っ直ぐ前を見ながら歩いていた。隣り合って歩く二人の姿はさまざまな意味で対照的だったが、どこか似合ってもいる。
「日本にはいつまで滞在される予定ですか?」
「あなたからイエスの返事を貰えるまで。つまり、明日かも知れないし、三年後かも知れないし、永遠にここに居座るかもしれないということです」
ケネスはさらりと答えた。
その時、すれ違った針葉樹が風に揺れるのと一緒に、あかねの心もざわざわと音を立てた。
なんと答えればいいのだろう。
外国人女性なら、こういう時の気が利いた答え方を知っているのだろうか。あかねがうつむいたまま顔を上げられないでいると、ケネスはそのまま先を続けた。
「アカネ、融資の話があるからといって、あなたが無理にうなづく必要はありませんよ。すでに言った通り、あれはついでに過ぎない。わたしが欲しいのは無理にあなたを繋ぎとめることでなく、あなたの心そのものだ」
「…………」


