──おとぎ話。
確かにおとぎ話と呼んでしまうと、しっくりくる。
そのくらい一連の展開はスムーズで、無駄がなくて、夢のようにロマンチックな出来事だった。
(や、やだ……なに考えてるの?)
いよいよケネスが提案した融資を受け入れる書類にサインを記す段階になって、そんな事を考えてしまったあかねは、ギュッとペンを握り直した。
ここは会議室の一つで、周りには役員たちが神妙な顔で座っている。そしてその中には、当然だが、ケネスもいて、こちらを見ながら座っていた。
(馬鹿っ! このサインに会社が掛かってるんだから!)
あかねは姿勢を正すと、そのまま勢いに任せて素早くサインをした。
すると同時に、周りからゆっくりとした拍手がおこる。
あかねは顔を上げて小さく息を吐いた。部屋を見回すと、皆、平静を保ちながらもその瞳に喜びを浮かばせている。
当然だ──これで、彼らの明日は保障されたのだから。そしてケネスを見ると、目が合った。拍手こそしていないものの、口元には柔らかい笑みが浮かんでいた。


