「あかねちゃん、昨夜はどうなったの? あのイギリス紳士と夕食だったんでしょう!?」
秘書の鈴木は、翌朝早々、社長室へ入ろうとするあかねに挨拶もしないまま、紅潮した顔でそう聞いてきた。
あかねはあかねで、そんな鈴木の反応を予想していたから、少し眉を八の字に下げただけで淡々と答えた。
「お食事を奢ってもらって、お話をして、帰りにタクシーを拾って貰いました。まる、です。本当にそれだけですよ」
「本当! 紳士で素敵じゃない。ストイックなのも萌えるわね」
「鈴木さん、萌えるとか言わないで下さい、もう……」
声だけは困ったふうでありながらも、あかねの頬にははにかむ少女のような鮮やかな紅がさしている。鈴木はなにやら喉の奥で唸りながら、そんなあかねの姿を上から下まで舐めるように見つめた。
「……可愛いものね、あかねちゃん。わたしには夢みたいな話だわ。突然、長身美形の英国人実業家が現れて、会社に融資してくれる上にプロポーズだなんて」
「わたしにだって夢みたいな話ですよ、鈴木さん。なんだか実感がなくて」
「ふふ、でも嫌ではなかったみたいね? 少し心配したの、あかねちゃんが融資の為に嫌々彼と付き合うことになったら……って。でもそんな感じじゃなさそうね」
「う、ううん……」
あかねは曖昧に答えた。自分でも答えがよく分からなかったからだ。
「それで、その……理由は聞いた? どうして彼が急にあかねちゃんを見初めたのか」
鈴木の声のトーンが妙に上がった──どうやらこれが一番聞きたい質問だったようだ。
あかねは逆に声を落として答えた。
「昔、父と一緒にイギリスへ行った時に、パーティーで会ったらしいんです。会ったっていうか、私は覚えてなくて……向こうが私を見ただけって」
「まぁ!」
と、素っ頓狂な叫びを上げて、すぐに我に返ったのか鈴木は口元に両手を当てて肩をすくめた。感極まった、という感じで首を振りながら、目を輝かせる。
「まるでおとぎ話ね。本当にこんな話があるなんて思わなかったわ」


