Forgiving~英国人実業家は因習の愛に溺れる~


 あかねはもう一度ケネスをまじまじと見つめた。

 彼の瞳は確かに真実を語っている、ような気が、あかねにはした。
 それでも最大の疑問は残ったままで、それをどう切り出すべきかと思いを巡らせてみるのに、考えれば考えるほど頭の中が混乱してくる。

 そうこうしているうちに、ウェイターが注文を取りに来た。
 ハーフなのだろうか、日本人とも外国人ともつかないエキゾチックな顔立ちのそのウェイターは、日本語も英語も完璧に話した。若いが物腰も柔らかく礼儀正しい。
 こんな従業員のレベルだけ見ても、やはり、この店の格調高さがうかがえた。

 ケネスもケネスで、慣れた感じで二人分の注文を済ますと、またあかねに向き直った。

 両肘をテーブルに付き、手を組んでその上に顎を軽く乗せる。
 その仕草は繊細でいて少しラフで、間違いなくあかねの胸を高鳴らせた。

「あなたは美しい、アカネ。私が想像したよりずっと美しくなった」

 そして、ケネスは微笑んだ。
 あかねはまた答える言葉が見つからず、ただ息を飲む。

 なに? この人はなにを言っているの──そう、現実を持て余しながら。