あかねはちびちびとアペリティフに口を付けながら、ケネスを盗み見た。
目が合うと軽く微笑むその表情が、ますます体温を上げる。
綺麗な輪郭の線だと、あかねは思った。
彫りの深さに代表される彫刻的な顔立ちは、日本人のあかねにとってはそれだけで一種の神秘だ。それなりに外国人との交流はあった方だと思うが、ケネスはまた独特の不思議な魅力を持っている気がする。
パッと見では美形なのかそうでないのか少し判断し辛い造形なのに、こうして見つめていると、否応なしに惹きこまれて、そのまま目を離せなくなる。
「に……日本は初めてなんですよね? よくこんな素敵な店をご存知でしたね」
とりあえずなにか喋らなくては。
そう思ったから、あかねはとりあえず思い付いたことをぱっと口にしてみた。するとケネスはグラスをテーブルに戻しながら落ち着いた声で答えた。
「あなたを食事に誘おうと最初から決めていたからですよ。知っていた訳ではないんです。この街で一番の場所をと調べさせてあったからだ」
「ま、まぁ……」
「その為にここまで来たんですから」
「あの、そのお話ですけど、ミスター・リッター」
ケネスの声は落ち着いた中にもなにか明らかに熱っぽい響きがあって、あかねは慌てて話題を変えようとした。しかし相手は一枚、いや、それ以上に上で、逆にそのあかねの言葉に便乗してくる。
「『そのお話』は本物だ、アカネ。わたしはあなたに会いたくて日本まで来たんです。あなたに求婚を──いや、さすがに二十一世紀にそれはないな。今は求愛とでも言っておきましょうか。あなたに交際を申し込みたくて来たのだと。融資はついでの話です、調べてみたらあんな状況だったので」
「調べて……?」
「悪く取らないで下さい、インターネットで少し見てみただけです」


