Forgiving~英国人実業家は因習の愛に溺れる~


 指定されたレストランは充分すぎるほど良識のある場所だ。人も多い。
 お互い子供ではないのだから、後ろめたく思う事はなにもない──そんなふうに自分を納得させていたが、本当はただ単純に、嬉しかったのだ。彼のような男性が自分を誘ってくれたこと。

 そして……。

(で、でも、結婚って……!)

 まるでお伽噺だ。
 あかねは確かに、どちらかと言えば夢見がちな方ではあったけれど、それが本当に現実になると思い込むほど重症ではない。

 あの後のケネスの態度はまた元通り、とても紳士的だったから、もしかしたらやっぱり、あれは冗談だったのかもしれないと、あかねは自分を落ち着かせていた。
 ただ昨日今日とで、あかねをからかったのだ。少し大袈裟な冗談……。

 最終的にあかねは、いくつか試着した中で、薄い茶色の女性的なドレスを選んだ。スカートの裾は膝までの長さで、それが長すぎず短すぎずで、丁度いいものに思える。

 清算を済ませて店の外に出ると、太陽の姿は殆ど消え入っていた。

 仕事帰りの社会人たちが早足に遊歩道を通り抜けていく。
 ある者は幸せそうに、またある者はそうでなく。いつも日常の一部として受け入れていたその光景が、なぜかその時だけ、遠く、空しいものに感じた。