しばらくすると、ケネスとあかね、二人きりだった応接室の扉が叩かれた。
あかねが「どうぞ」と言うと入ってきたのは、三島ともう一人の役員、そして秘書の鈴木の三人だった。
「遅れて申し訳ありません、ミスター・リッター……でよろしかったでしょうか。わたしは三島と申します」
三島が英語でそう名乗りながら、ケネスに手を差し出した。ケネスも、滑らかにそれを握り返す。
「いえ、こちらこそアポイントもなく、勝手に申し訳ない。迅速な対応に感謝します」
「どうぞお座り下さい、ミスター・リッター。鈴木、お茶のお代わりを」
「はい、今直ぐ」
三島はケネスを含む全員に、席を勧めた。あかねは今の今まで気がつかなかったが、よく見てみると応接机の上に手付かずのお茶が一杯置かれており、すでに冷たくなりかけていた。
三島、もう一人の役員、ケネス、そしてあかねの四人は、そのまま席に付いた。
突然の訪問者であるにもかかわらず、三島の対応は堂々としたものだった。
彼は、あかねの父が会社を興した当時からここで働いていた人物で、会社がそれなりの大きさになったのも彼の助けがあったからだと、父はよくあかねに漏らしていた。年の頃は既に六十になるが、四十代後半と言っても通じるような、精悍な容貌をしている。
「それで、今回はどういったご用件で?」
全員が座ると、ゆっくり、しかしはっきりした口調で、三島はケネスに切り出した。
その場にさっきまでとは別の緊張感が流れる。
仕事の話が始まったのだ。ケネスの顔付きも、もっと真剣なものに変わった。
「その前に……もう一度自己紹介をさせて頂きたい。私はケネス・ウィリアム・リッター、イギリス人で実業家をしています。主に貿易などを。マルチ・ビリオネアとは言えませんが、それなりの資産はあるつもりです」


