悪女な私とは婚約破棄してください。なのに、冷徹社長の猛愛からは逃げられない

 にこやかではあるが会話を広げる気はなさそうな楓の態度に、愛奈はやや戸惑っている様子だ。おそらく直面した経験のない状況だからだろう。

(もしかして、愛奈は楓さんを気に入ったのかしら)

 彼女が男性に言い寄られている光景は見慣れたものだが、愛奈のほうから積極的に声をかける……なんてパターンはほとんどなかったように思う。

(う~ん。でも、愛奈は誰に対してもフレンドリーだし。考えすぎね)

 それに彼はKAMUROが世話になった鷹井家の人間だ。それを知っている愛奈が楓に好意的なのは当然だろう。
 続いて、志桜の視線は楓のほうに向く。

(パーティーのときは、彼が愛奈に恋をしたと思い込んだけど……そういうわけでもなかったのかな?)

 考えをひるがえした根拠は単純なものだ。このひと月の間に何度か打ち合わせをしてわかったのだが、ビジネスモードのときの楓は意外と愛想がいい。
 あの日、愛奈に向けていた甘いほほ笑みは、どちらかといえばビジネススマイルに近かったのかもしれない。

(いや、でも私にはその愛想笑いさえもなかったもの。少なくとも、私よりは愛奈とのほうがお喋りも弾んでいる様子だし)