悪女な私とは婚約破棄してください。なのに、冷徹社長の猛愛からは逃げられない

 彼はいやに妖艶なオーラをにじませて、グッと志桜との距離を詰めた。逃げ道を塞ぐように壁際に追い込まれる。

「婚約破棄の正当事由、見つかった?」
「それは……まだですけど」

 今夜の彼は完璧な婚約者ぶりで、付け入る隙はまったくなかった。この五年間とは別の人間なのでは?と疑いたくなるほどに。
 整いすぎた美しい顔が近づく。志桜の耳元に唇を寄せ、彼がつぶやく。

(――ん?)

「あの、今なんて?」

 聞こえなかったわけじゃない。脳の理解が追いついていないだけ。
 感情の読めない、氷の瞳が柔らかくほどけた。目尻を少しさげるだけで、とてつもなく甘い笑みに見えてしまうのだからイケメンはお得だ。
 ささやき声が志桜の耳をくすぐる。

「君のお望みの婚約破棄。そう簡単に応じてやる気はないから、そのつもりで」