悪女な私とは婚約破棄してください。なのに、冷徹社長の猛愛からは逃げられない

「あぁ。だいいち萩田さんのドレスも怪我も、心から心配しているのは君だけだった。あの状況を見て『君が意地悪をした』と判断する人間は無能すぎる」

 情け容赦なく彼は言い捨て、それから少し声をやわらげ続ける。

「世の中はそんな無能ばかりじゃない……と俺は思う」

 想像の何倍も、その言葉は志桜の耳に優しく響いた。

(私、ずっと……自分で思っている以上に傷ついていたのかもしれない)

 誰かに信じてもらえる、その喜びを久しぶりに感じた。胸に温かなものが広がり、うっかり涙ぐみそうになってしまい、慌てて手の甲で拭う。
 志桜はパッと顔をあげ、楓を見た。

「ありがとうございます。そんなふうに言ってもらえたのは初めてです」

 ごく自然に笑顔がこぼれた。それを見た彼は驚いたように目をみはり、それからコホンと咳払いをひとつ落とす。

「謝罪より、そっちのほうがいい」

 スッと志桜から視線を外して、彼はそんな台詞を口にした。

(あれ? もしかして照れて……るわけないか)

 頬がほんのり赤く染まって見えるのは、きっと照明のせいだろう。