悪女な私とは婚約破棄してください。なのに、冷徹社長の猛愛からは逃げられない

「さっきの騒動でおわかりになったかと思いますが、私はこういう場での振る舞いが不得手で……昔から似たような失敗ばかりなんです」

 だから学校でも会社でも嫌われてしまう。そんな自分を妻にしても、楓にはなんの得もない。愛奈が言っていたような〝責任感〟を抱いているのなら、そんなのは捨てていい。
 そう話そうとしたのに、彼がそれを遮った。

「過去は知らないが、少なくとも今日の君はなんの失敗もしていないだろう」
「え?」

 まっすぐな眼差しが志桜をつかまえる。

「今のワインの件なら、君の過失割合はゼロに近い。車の事故にたとえるなら、停車しているところに後ろから追突されたようなものだ」

 楓は静かな、けれどきっぱりとした声で言う。

「誰にも謝らなくていいし、失敗したと思う必要もない」
「そう、なのでしょうか」

 自分のことを彼に尋ねるのは変だとわかっている。でも、自分ではなんだかわからなくなっていたのだ。

(なにもしていないつもりでも、気づけば人に憎まれたり嫌われていたりする。それは自分の性格のせいだと思っていたけど)

 そんなふうに思わなくてもよかったのだろうか。
 彼の言葉がひと筋の光のように、志桜の心を照らした。