悪女な私とは婚約破棄してください。なのに、冷徹社長の猛愛からは逃げられない

 あっと、なにか思いついた表情で愛奈は胸の前で両手を合わせた。

「そうだ。VIPの招待客にはメイホリックが控室を用意したって聞いたけど、本当かしら? その人に頼めば……」
「それなら楓さんが!」

 最良の解決策だ。ホテルの部屋ならシャワーもタオルもあるし、トイレを占拠せずに着替えができる。おまけに、VIPの招待客ならここにいる。
 志桜は彼に頭をさげて頼んだ。

「楓さん。愛奈に部屋を貸してくださいますか」

 志桜に続いて愛奈もぺこりと頭をさげる。

「申し訳ありませんが、頼んでもいいですか?」

 ふたりの言葉を聞いた楓は、胸ポケットからスッとカードキーを出して愛奈に手渡した。

「どうぞ」

 嬉しそうに愛奈が表情をほころばせた。

「わぁ、助かります! えっと、エグゼクティブフロア? 専用EVがあるんですね。あの、もしよかったら案内をお願いしても?」

 愛奈の〝お願い〟に楓は美しい微笑を返す。しかし――。

「案内ならホテルスタッフに。部屋は好きに使ってくれて構いません。私は決して立ち入りませんので」
「えっ」

 断られる想定は頭になかったのだろう。愛奈は驚きに目を見開いた。それから、楓はハルカとユリに凍りつくような視線を送る。ふたりがビクッと全身を硬くしたのが見ている志桜にも伝わった。