悪女な私とは婚約破棄してください。なのに、冷徹社長の猛愛からは逃げられない

「だとしても、パーティーでドレスを台無しにするなんて」

 それぞれの憶測がまるで真実かのように伝播していき、大勢の人からの冷たい眼差しが志桜を貫く。その先頭に立つのはハルカとユリだ。

「愛奈になんの恨みがあるのかしら」
「嫉妬でしょ。ほら、神室さんって昔から……」

 ふたりの悪意のあるヒソヒソ話を遮って、愛奈が声をあげた。

「私は平気だから。心配しないで」

 ウルウルと濡れたように見える美しい瞳で、彼女はほほ笑む。

「私、下のショップでドレスと絆創膏を探してくる」

 愛奈のドレス、そのままではいられないだろう。高級ホテルなので下階にいくつかのショップが入っていたはず。踵を返し、会場を出ていこうとする志桜の腕を楓が引いた。

「大丈夫だ。君が行かなくともホテルコンシェルジュに頼めばいい。一流ホテルだから、その程度のサービスはある」
「あ、あぁ。たしかに」

 楓は片手をあげてホテルスタッフを呼び、事情を説明した。

「ありがとうございます、楓さん。頼りがいがあるんですね」

 可憐な花のように愛奈が笑むと、柔らかそうな髪がふわりと揺れた。それから、彼女はちょっと困った顔になってシュンと肩を落とす。

「でも着替えの場所が……シャワーは無理でも、タオルで拭くくらいはしたいのに」