悪女な私とは婚約破棄してください。なのに、冷徹社長の猛愛からは逃げられない

 愛奈が自身の胸元に視線を落とす。志桜のこぼした赤ワインで、彼女のライラック色のドレスが赤く染まっていた。

「ご、ごめん。愛奈」

 誓って故意ではなく、互いの手元がぶつかってしまっただけなのだが、志桜のワインが愛奈のドレスを汚したのは事実だ。志桜はパーティーバッグからハンカチを取り出し、彼女に差し出そうとした。そのとき、愛奈の白く華奢なふくらはぎに血がにじんでいるのに気がつく。

「愛奈、足に怪我を」

 志桜は身をかがめて、愛奈の足の傷口にハンカチを当てた。

「本当にごめん。きっと割れたグラスの破片が刺さったのね」

 志桜が立ちあがり、愛奈にもう一度謝ったところで、ハルカが声をあげる。

「いくらなんでも、ひどすぎない? ワインをかけただけじゃなく怪我までさせるなんて」

 彼女の立ち位置からだと、志桜が故意にやったように見えたのだろうか。辺りに響く、いやに芝居がかった声でハルカは言った。続いてユリも。

「自分でやっておいて心配するふり?」

 ふたりの声の大きさに、興味本位に集まってくる人も増え、場がざわめき出した。

「なにかあったの?」
「あの、薄紫のドレスの女性が怪我をしたらしい」
「私、見てたわ。黒いドレスの子があの子にワインをぶちまけたのよ」
「え~、喧嘩?」