悪女な私とは婚約破棄してください。なのに、冷徹社長の猛愛からは逃げられない

 伝統を守るだけでは先行きは厳しい。上顧客である年配のマダム層も大切にしつつ、新規の若い層も取り込んでいかなくては。そのために五年ほど前に立ちあげたのが、セカンドラインと呼べる新ブランド『Kマシェリ』だ。ターゲットは二十代後半~三十代の働く女性。ご褒美ジュエリーとして、少し奮発すれば手の届く価格帯の商品を展開している。
 商品価格を抑えるためにコストは徹底カットし、販売チャネルはオンラインのみ。〝本店での対面販売〟の手法を守り続けてきたKAMUROにとっては挑戦的な施策だったが、ECショッピングに抵抗のないターゲット層にうまくはまり、Kマシェリの売上は順調に伸びていた。志桜の仕事は、このブランドをさらに大きく成長させること。

(こっちのキーワードを大きくアピールするほうがいいかな? それとも……)

 あれこれ考えながらPCとにらめっこをしていたら、あっという間に終業時間になってしまった。ベルが鳴り終わると同時に、周囲の女性社員たちのお喋りが始まる。

「予約、何時だっけ?」
「七時! お店まで一緒に行こうよ」
「うん。すぐに片づけるから待ってて~」

 聞いていた志桜もハッとしてキーボードを打つ手を止める。

(しまった、忘れてた)