悪女な私とは婚約破棄してください。なのに、冷徹社長の猛愛からは逃げられない

「ほら。ここ数年の鷹井グループは、飛ぶ鳥を落とす勢いでしょう? 五年前なら『歴史が浅い』みたいな声があったのもわかるけど……今の鷹井家には結婚によって得る神室の名前なんて不要なんじゃないかと思って」

 彼女の言葉に志桜はうなずく。まったく同じことを自分も思っていた。

「そう言ったら、彼も否定はしなかったの」

 クスッと小さく笑って、愛奈は続ける。

「それでも志桜との婚約を破棄しないってことは、志桜の立場をすごく思いやってくれてるんだな~と思って」
「私の立場?」

 やや言いよどむように、愛奈は声をひそめた。

「だって婚約者に捨てられたなんて噂が立ったら、志桜の将来に傷がつくでしょう? 楓さんはそうならないよう、気遣ってくれてるんだなって」
「あぁ、なるほど」
「責任感のある、素敵な婚約者で羨ましい!」

(責任感……か)

 それは盲点だったかもしれない。愛奈の言うとおり、彼は意外にも優しい一面があり志桜の世間体を気にしている。その可能性もあるだろうか?

(そんな気遣いは不要ですよと、あとで伝えてみようかしら)

 婚約破棄への道筋がくっきりと見えてきた気がして、志桜は満足げに目を細めた。

「あっ、いたいた! 愛奈~」