悪女な私とは婚約破棄してください。なのに、冷徹社長の猛愛からは逃げられない

 考えようによっては、これは悪くない流れだ。志桜の知るかぎり、愛奈を好きにならない男性はほとんどいなかった。楓も同じかもしれない。で、あるならば――。
 志桜はガッツポーズでもするかのように、胸の前で両手を握った。

(よし! 私に好都合な展開がきたわ)

 楓が愛奈に恋をすれば、話はこれ以上ないほどスムーズに進む。彼は志桜との婚約破棄を望むだろう。志桜の想像はさらに進んでいく。

(愛奈が楓さんをどう思うかは未知数だけれど……)

 チラッと思い出すかぎりでも、彼女の歴代の恋人は優しい王子さまタイプ。イケメンはイケメンでも楓のようなクール系はいなかったはず。
 ただ、先日の愛奈の興奮した様子から推測するに、彼の外見は好みだったようだから可能性はゼロではないかもしれない。

(愛奈も今は恋人いないって言ってたし。いやでも、これは余計なお世話というやつよね)

 婚約破棄のその先は、志桜には関係のない話だ。
 
「志桜~!」

 聞き慣れた声にハッとして、志桜は顔をあげた。愛奈と彼女より一歩さがった楓がこちらに向かって歩いてきていた。愛奈は志桜の前まで来ると、「うふふ」とかわいらしく口元をほころばせる。

「びっくりした?」

 自分がここにいることに、という意味だろう。答えはもちろんイエスだ。