悪女な私とは婚約破棄してください。なのに、冷徹社長の猛愛からは逃げられない

 楓はまっすぐに志桜を見つめ返し、静かに答える。

「婚約者。そう言うのは、君の意思を無視するようでよくないなと思った。だから関係性を一段さげて〝恋人〟と説明したんだが……ダメだったか?」
「ダメってわけではないですけど」

(婚約者より恋人のほうがより親密な関係性だと感じるのは私だけ?)

 もしかしたら、楓は恋人をガールフレンドのニュアンスでとらえているのかもしれない。どちらにせよ彼に悪気はない。むしろ志桜を気遣ってくれたらしいので、文句は言いにくい。

「なら、今日のところは恋人でいいだろう」

 問題ないという顔で、楓はきっぱりと言い切った。端整な横顔をまじまじと見て、志桜はこっそりため息を落とした。

(やっぱり、よくわからない人だわ)

 五年前に抱いた第一印象は〝怖そうな人〟だった。鉄仮面でもかぶっているかのように無表情で冷徹で……志桜に興味がないのを隠そうともしなかった。
 今の彼の印象はあの頃とは少し違う。端的に表すとすれば〝変わった人〟になるだろうか。彼なりの思考の軸はあるのだろうけど、志桜のそれとは離れすぎていてちっとも理解できない。最先端のAI研究をリードしているような人物を、自分のような凡人がわかろうとするのが無理な話なのかもしれない。