悪女な私とは婚約破棄してください。なのに、冷徹社長の猛愛からは逃げられない

(お部屋? 素敵な夜? なんの話かしら?)

 メイホリックの社長と別れたあと、志桜は楓を会場の隅に引っ張っていき尋ねた。

「あの、先ほどの社長のお話はどういう意味だったのでしょう」
「あぁ。パーティー招待客のうち、VIPとみなされている人間にはメイホリック側がこのホテルの部屋を控室として取ってくれていて、俺ももらっているんだ」

 なんとも景気のいい話だが、メイホリックは今海外でも大人気らしいので実際に景気がいいのだろう。

(え、じゃあ『素敵な夜を』の意味って……)

 社長の台詞の意味を理解した志桜はボンッと赤面する。それを見た楓は「はぁ」と小さく息を吐いた。

「妙な心配をする必要はない。君を連れ込む気などないから」

 こういうシーンで用意される部屋は本当に控室以上の意味はなく、律儀に宿泊する人間はほとんどいないそうだ。楓はそう説明した。

「もし宿泊したいのなら、キーをやる。俺は帰るからゆっくり過ごすといい」
「いえ。私も……泊まる用意なんてしてきていないので」

 それから、志桜は勇気を出してチラリと彼を見あげた。

「さっきの。こ、恋人ってなんですか」

 照れてるとは思われたくないので、意識して冷静な口調を心がけたらなんだか怒っているような声になった。