悪女な私とは婚約破棄してください。なのに、冷徹社長の猛愛からは逃げられない

 華奢な鎖骨の辺りまで緩やかに波打つ栗色の髪、桃色に染まる頬と唇。ぱっちりした二重の目にふっくらとした小ぶりな唇。今日、ここに招待されている人気モデルと並んだって、ちっとも見劣りしないかわいらしさだ。

(思えば、愛奈を好きにならない男の子なんてひとりもいなかった)

 彼女とは中学と高校が一緒だったが、学校中の男の子が愛奈に恋をしていたといっても過言じゃないほどのモテっぷりだった。
『愛奈ちゃんはさ、俺がそばにいてあげないとダメなんだ』 
 もう十年近くも前に聞いた台詞が、ふいに耳に蘇った。

(きっと楓さんも同じね)

 甘やかな空気を醸し出す、自身の婚約者とイトコの姿を見つめ……志桜はグッと胸の前で両手を握り、その瞳を輝かせた。

(よし! 私に好都合な展開がきたわ)

 ほかの男性もそうだったように、おそらく楓も愛奈に恋をするだろう。つまり、彼のほうにも志桜との婚約を破棄する理由ができるのだ。そうなったら、こっちのもの。

(可及的速やかに、婚約破棄が達成できるじゃない)

 思わず万歳をしたくなるほど、志桜の心は弾んだ。

 それから一時間後。

 完全勝利を目前に浮かれきっていた志桜の頭に、数えきれないほどの疑問符が浮かぶ。

「あ、あの今、なんて?」