悪女な私とは婚約破棄してください。なのに、冷徹社長の猛愛からは逃げられない

「承知しました。このお話、どうぞ進めてください」

 今どき政略結婚だなんてという思いはもちろんあるけれど、KAMUROのためなら仕方ないと自分を納得させた。亡き父の失策を少しでも挽回できるなら……と前向きに考えるようにも心がけた。

 そうして迎えた、顔合わせ当日。

 会場は東京タワーからほど近い港区にある老舗料亭。鹿威しのコーンという音が響く日本庭園に面した和室で、藤色の振袖に身を包んだ志桜はお相手の到着を待っていた。

(いかにもお見合いって感じで、さすがに緊張するなぁ)

 もっとも自分たちの場合は、婚約は半ば確定事項なので拒否権はないのだけれど。
 志桜の未来の夫、楓は五歳年上の二十五歳だと聞いている。AIの研究開発をする若手実業家としてすでに業界では注目の人、らしい。

「お待たせしてすみません。鷹井楓です」

 現れた彼を一目見た瞬間、志桜はゴクリと息をのんだ。ドレスライクなブラックスーツを着た彼があまりにも美しかったからだ。凛々しく、華やかで、まぶしすぎてとても直視できない。思わずサッと視線を外してしまった。

(素敵な人だったらいいな、と浮かれる気持ちがなかったわけじゃないけれど)