悪女な私とは婚約破棄してください。なのに、冷徹社長の猛愛からは逃げられない

 たとえ鷹井家が本心からそう考えていたのだとしても、志桜にはやはり負い目が残る。
 ビジネスの借りは、ビジネスで返しておきたかった。

(私自身の未来のためにも!)

 揺らがない志桜の思いを、その瞳から感じ取ったのだろう。楓は細く息を吐いた。

「君の真意はどこにある? 鷹井に借りがなくなったとして、君はなにを望む?」

 射るような眼差し。楓の瞳はどこまでも厳しく、冷たい。志桜はその目をしっかりと見返して言う。

「私とあなたの関係に終止符を、婚約破棄を望みます」

 志桜が婚約破棄というセンセーショナルな単語を口にしても、楓は眉ひとつ動かすことはなかった。飛び抜けて優秀な頭脳を持っているだろうから、話の流れで薄々察していたのかもしれない。

(あるいは、どうでもいいと思っているか)

 五年前とまったく同じ氷のような瞳を前にして、志桜の記憶はあの日に巻き戻されていった。