悪女な私とは婚約破棄してください。なのに、冷徹社長の猛愛からは逃げられない

 夜七時。仕事帰りに鷹井AIラボに顔を出す。蘭が本当に連絡を入れていたのか、楓と一緒に社長室にいた雄大は志桜にあいさつだけして「それじゃ、あとはおふたりで」とそそくさと帰っていってしまった。
 静かな社長室に、楓の淹れてくれたコーヒーの香ばしい香りが漂う。

「最近、コーヒーのおいしさに目覚めました」
「俺も。紅茶の奥深さに気づけたよ」

 互いの好きなものを、好きになっていく。恋っていいなぁと、しみじみ思う瞬間だ。

「会社は落ち着いたか?」
「はい。新社長を支えていこうと、みんなの気持ちもまとまったように感じます」

 英輔の後任には、志桜の父の代から会社を支えてくれていたベテランの役員が就任した。愚直な仕事ぶりの人で、今のKAMUROには最良の人選だったと思っている。
 おかした罪があきらかになった英輔と愛奈は会社を去った。妻に出ていかれてしまった英輔は、またギャンブルにはまっているらしいと噂に聞いた。
 愛奈も今回の件が取り巻きのようだった友人たちの耳にも入ったようで、仲間をなくし部屋に引きこもりがちな日々を送っているようだ。

「萩田前社長を訴えなくて、本当によかったのか?」