悪女な私とは婚約破棄してください。なのに、冷徹社長の猛愛からは逃げられない

「志桜にはきつく口止めされていました。でも、楓さんが努力して大きくした鷹井AIラボの評判を落とすようなマネは、さすがに許せませんっ」

 愛奈はスッと立ちあがり、テーブルを回り込みこちらに歩いてくる。楓の前で足を止めると、その場に膝をついた。白い手を楓のそれにそっと重ね、つぶらな瞳で見あげてくる。

「私は好きな人を、楓さんを裏切ったりなんかしない。お願いです。浮気性の志桜なんかやめて、私と――」
「触るな」

 自分でも驚くほど冷ややかな声で言い、楓は彼女の手を払いのけた。
 感情をシャットダウンしたつもりだったけれど、頼んでもいない下手な芝居を見せられ続け、もう限界を迎えていた。

(この部屋に入ってきたときからだ)

 心配している。彼女はそんな表情を必死に装っているようだったが、その目には隠しきれない愉悦の色がにじんていた。志桜をおとしいれるのが楽しくて仕方ないのだろう。

(まさしくハイエナだな)

「か、楓さん?」

 その自信はいったいどこからくるのだろう? 自分を拒む男などこの世にいないと無邪気に信じているらしかった。楓に思いきり手を振りほどかれた彼女の瞳は、驚きに見開かれている。
 ククッと喉の奥で笑い、楓は言う。

「まさか自分が志桜の代わりになれるとでも?」