悪女な私とは婚約破棄してください。なのに、冷徹社長の猛愛からは逃げられない

「子どもの頃からずーっと大嫌いだったわ。本家のお嬢さまだからってチヤホヤされて、いい気になって」

 どんなときもKAMUROの看板を背負っていると思って行動するように。両親からそう厳しく言い含められていたから、幼い頃から自身の振る舞いには気をつけていた。
 無邪気にはしゃいだり、怒ったり、泣いたりしたいときもグッとこらえて大人になろうと努力してきた。

(でも、愛奈の目には『いい気になっている』としか映っていなかったのね)

「……教えてくれて、ありがとう」

 たしかにあったはずの楽しかった思い出も、ガラガラと音を立てて崩れていく。

『きっと、彼女にも俺の母にも優しい一面はある。それは否定しなくていいと思う』

(楓さんはああ言ったけど、私には無理かもしれない)

 志桜はもう愛奈を見ようともせず、歩き出す。

「さよなら」

 決別の言葉だ。彼女との思い出を懐かしむ日は永遠に来ない気がした。