悪女な私とは婚約破棄してください。なのに、冷徹社長の猛愛からは逃げられない

「まぁでも……『母親が倒れた』はほんと最低最悪の嘘ですね。まともな人間なら、無視できないですもん」

 蘭は志桜に同情を示し、それから気遣うようにこちらをのぞく。

「大丈夫ですか?」
「う、ん。ちょっと頭を整理してみる」

 次から次へと色々なことが起きて、理解が追いついていない。落ち込むよりも混乱が先にきている感じだ。

「社内でこれ以上おかしな噂を広める人には、私がガツンと言っておきますから!」

 蘭は顔の横でグッとこぶしを握ってみせた。ひとりでも味方がいてくれると思うだけで、本当に心強かった。

「ありがとう、結城さん」

 社内では針のむしろ状態だったけれど、幸いコソコソと陰口を言われるのは慣れている。もういっそ開き直って、志桜は堂々と背筋を伸ばして席に座っていた。

「すご……厚顔無恥とはまさにこのことね」
「良家のお嬢さまが唯一のウリだったくせに」
(気にしない。私は恥ずべき行動はしていないもの。それより……)

 愛奈はこのあとどう動くつもりなのだろう。志桜の名誉をおとしめたのは、なんのため?

『次は、楓さんを奪ってあげる』

 たっぷりの毒を含んだ彼女の声を思い出す。

(狙いはきっと楓さんよね。この噂が彼や鷹井家の耳に入ったら、私たちの婚約は……)