悪女な私とは婚約破棄してください。なのに、冷徹社長の猛愛からは逃げられない

 朝一番でKAMUROの店舗に寄る必要があったので、志桜がオフィスに着いたのは午前十一時頃。

「おはようございます」

 自分がフロアに足を踏み入れた途端に、場の空気ががらりと変わったのがわかる。
 向けられる眼差しはいつも以上に冷たく、刺さるようだ。

「やばいでしょ。だって仮にも婚約者が……」
「あんな派手に遊ぶタイプだったとはねぇ」

 聞こえてくるヒソヒソ声は断片的で、志桜にはなんの話かさっぱりわからない。が、みなが向ける好奇と侮蔑の対象が自分であることだけはわかる。

(なに?)

 デスクに着くとすぐに、蘭が「神室さん、ちょっとこっち」と給湯室に志桜を引っ張っていった。ふたりきりになると、「これ、見てください」と蘭が声をひそめてささやく。
 彼女は自分のスマホ画面を志桜に向けた。志桜はやっていないのであまり詳しくないけれど、オシャレな写真を投稿したりするので有名なSNSのアイコンが表示されている。たしか、ナズナもこのSNSから人気になったはず。

「その写真がどうかしたの?」

 画面に映るのは男女のカップルだ。背景が薄暗くてわかりにくい画像なので、志桜は画面に顔を近づけて目を凝らす。

(――え?)

 なにかの間違いだろうとまばたきを繰り志桜に、蘭は悲痛な声を落とした。