悪女な私とは婚約破棄してください。なのに、冷徹社長の猛愛からは逃げられない

 彼女だけは味方。そう信じていた自分はとんでもない愚か者だったのだろうか。
 クスクスと無邪気に愛奈は笑う。

「そんなわけない。私は志桜が大好きよ」
「あい、な?」

 スッと顔をあげた彼女は、天使から悪魔に変貌していた。

「だって、志桜は私の引き立て役にぴったりだから!」

 志桜は目を見開き、呆然と彼女を見つめる。なにがおかしいのか、愛奈はとても楽しそうだ。

「悪役顔の志桜の隣だと私のかわいさがより際立つし、みんなが勝手に〝創業一族の傲慢なお嬢さま〟と比べて、私は健気だって言ってくれる」

(引き立て役……それが愛奈の本心?)

 心が一気に、氷点下まで冷えていく。

「それに、志桜のものを奪うと、すっごく気分がいいの。ねぇ、高校のときの彼を覚えてる? ほら、志桜に告白してきた子よ」

 古い記憶がぼんやりと蘇る。
 朝、いつも同じ電車に乗っていた他校の男の子。告白してくれて、一度だけデートをした。まだ恋ではなかったけれど、これから恋に変わるといい。志桜はそんなふうに思っていた。でも二度目のデートが実現する前にあっさりと振られた。

『愛奈ちゃんはさ、俺がそばにいてあげないとダメなんだ』

 彼は愛奈の恋人になっていた。