悪女な私とは婚約破棄してください。なのに、冷徹社長の猛愛からは逃げられない

 鼓動が不穏なリズムを刻む。やけに渇いた喉の奥から、志桜はどうにか声を振り絞る。

「ナズナさんとの約束は来週だと聞いたけど?」
「うん、そうよ。人気インフルエンサーに会えるなんて楽しみ!」
「……ゆうべ、私にした話は? もしかして全部……」

 クスリと唇の端だけを持ちあげて、愛奈は志桜に近づく。彼女の白く柔らかな両の手のひらが志桜の頬を包む。

「志桜ったら大丈夫? なんの話をしているのか、私にはさっぱりわからないな」
「――おばさまが倒れた話もナズナさんとのアポも、すべて嘘だったの?」

 声を荒らげ、バッと彼女の手を振り払った。怒りで小刻みに肩が震える。
 わざわざ志桜が出てくるタイミングを見はからって、電話をしているふりまでした。そいいうことなのだろう。

「なんのためにそこまで?」

 鋭い目で彼女をにらむ。それでも愛奈は天使のように愛らしい笑みを浮かべたままだ。
 志桜の顔がくしゃりとゆがむ。

「教えて、愛奈。本当はずっと……私が嫌いだったの?」

 さっきも、ワインのときもそうだった。

(ううん。振り返ってみれば、学生時代にも同じようなことがあったわ)

 志桜が悪役になる場面には、いつも愛奈がいた。

(私を責める場の空気……あれは愛奈が意図的に作り出していたの?)