悪女な私とは婚約破棄してください。なのに、冷徹社長の猛愛からは逃げられない

「愛奈。どうしたの、大丈夫?」

 パッと顔をあげた愛奈は不安そうに視線を惑わせた。

「どうしよう。ママが倒れたって……」
「えぇ、おばさまが?」

 愛奈の母は娘を溺愛していて、ふたりは姉妹のように仲がよかった。

「おばさまはご自宅? 病院? とにかく、タクシーをつかまえてすぐに向かって」

 志桜は愛奈の背中を押し、大通りのほうへと足を向けさせる。

「うん。あ、でも」
「なにかあるの?」

 そう尋ねると、愛奈は小さくうなずき話し出す。

「今夜、大事なアポイントがあるの」

 例のKマシェリの新企画の件で、広報部はプロモーションの目玉として人気の女性インフルエンサーを起用する計画を進めていた。
 思い出にちなんだジュエリーをAIと一緒にデザインするという体験を実際に彼女にしてもらい、公式HPでその特集ページを組むつもりなのだ。

「ナズナさん、今どこの企業からも引っ張りだこで、やっとアポ取りできたのにドタキャンなんかしたらせっかくのチャンスが……」

 愛奈の思いもよくわかった。インフルエンターはほかにもたくさんいるけれど、彼女以上の広告効果のある人物はなかなかいない。

「それなら、私が代わりに行くわ。今回の依頼の概要くらいなら説明できるし」