悪女な私とは婚約破棄してください。なのに、冷徹社長の猛愛からは逃げられない

 もっと知りたい、もっと一緒にいたい。いつの間にかその思いが強くなっていた。
 志桜の逃げ場を塞ぐように、彼の左手がソファの背もたれにかかる。志桜はその身で、彼の体温と重さを感じた。

「君が婚約を破棄したいなら、みっともなくすがったりはしないと約束した。だが、あの言葉は撤回させてくれ」
「楓さん……」

 真摯な眼差しが志桜を貫く。

「みっともなくすがってでも、君が欲しい」

 甘く、切なく、視線が絡む。志桜は返事の代わりにそっと目を閉じ、近づいてくる彼の唇を受け止めた。柔らかで、温かい。チョコレートが香る初めてのキスは、幸福の味がした。

「ふっ、んん」

 口づけはだんだんと熱と湿り気を帯びていく。そっと忍び込んできた厚みのある舌が志桜を酔わせ、翻弄する。

「楓さん……好き」

 潤む瞳でささやけば、弱りきった笑みが返ってくる。

「今、そんな顔をされると止まれる気がしないんだが……」

 恋も、キスも、その先も、志桜にはすべてが初めての経験で、恐怖心はもちろんあった。でもそれ以上に、好きな人に求められる喜びに胸が満たされて幸せだった。
 勇気を出して、じっと彼を見つめる。自分の正直に思いを伝えよう。

「形だけの婚約者じゃなくて、私を楓さんの恋人にしてくれますか?」
「――もちろん」