悪女な私とは婚約破棄してください。なのに、冷徹社長の猛愛からは逃げられない

「夜遅くに食べるスイーツって、特別な感じがしていいですよね。身体に悪いとわかっているけど、その背徳感でよりおいしくなる気がして」

 楓は目を見開いて、まじまじと志桜を見つめている。

「えっと、なにかおかしな発言でしたか?」

 不安になって聞いてみると、彼はゆるゆると首を横に振る。その口元は楽しそうにほころんでいる。

「いや、台詞じゃなくて表情が。かわいいなと思って」
(か、かわいい?)

 みるみるうちに志桜の顔面が赤く染めあげられていく。

「俺の前で、君がそんなふうに笑ってくれるようになったのが嬉しい」

 楓は本当にまっすぐな人だ。偽りのない彼の言葉が、志桜の心を溶かしてこちらの本音までむき出しにする。

「ケーキ、うまいな。君は料理だけじゃなくお菓子も作れるのか」
「ありがとうございます。でも、これは結構簡単レシピなんです。もっと本格的な作り方をするときは……」

 なんでもない話題でも、一緒にいられるだけで楽しくてフワフワした心地になる。

(このまま、時間が止まってくれたらいいのにな)

 志桜がそんなふうに思ったところで、楓はチラリと壁掛けの時計に目をやった。

「もう十時か。明日は土曜日とはいえ、あまり遅くなるのもよくないな。そろそろ家まで送ろうか」
「あ、あの!」