悪女な私とは婚約破棄してください。なのに、冷徹社長の猛愛からは逃げられない

 オープンカーもあまり似合わないけれど、草むしりはもっと似合わなそうだ。志桜はぷっと噴き出す。

「ケーキとコーヒーを用意するから、座ってて」
「はい」

 コーヒーを淹れるのは、きっと彼のほうが上手なはず。だからお任せしようと、志桜はリビングルームのグレーのソファに腰をおろした。ガラスのテーブルの上には彼が読んでいたらしい海外のミステリー小説が置かれている。散らかっているわけではないけれど、サンノゼの家より生活感があって、楓の部屋に来たんだなと強く実感する。

(どうしよう、すごくドキドキしてきた。というか、あらためて考えるとサンノゼでは一週間もひとつ屋根の下にいたのよね)

 あのときは、世話になって申し訳ないという気持ちばかりで今みたいな緊張感はまったく感じていなかった。それだけ、自分たちの関係性に変化があったということなのだろう。

(楓さんは別人みたいに優しいし、なにより私自身が……)

「志桜」

 耳元でささやくように名前を呼ばれ、ビクンと肩が跳ねる。

「コーヒー、ミルクと砂糖は?」
「あ、ミルクだけで」

 北欧デザインだろうか。揃いのモダンな皿とティーカップで、楓はケーキとコーヒーを用意してくれた。彼が隣に座るのを待ってから、志桜は「いただきます」と手を合わせた。