悪女な私とは婚約破棄してください。なのに、冷徹社長の猛愛からは逃げられない

「あぁ。わざわざ自分で買うほどではないが、嫌いじゃない」

 そんなふうに言って、彼は志桜から受け取った小さな紙袋のなかをのぞく。

「チョコレートケーキ? うまそうだな」
「ガトーショコラです。甘さは控えめにしてあるので……」

 控えめにしてある。そこで楓も察したのだろう。驚いたようにパチパチと目を瞬く。

「もしかして手作り?」

 ためらいがちに志桜はうなずく。

(気持ち悪いかなとも思ったけど、でも、手作りのカレーは喜んでくれたし、だから……)

 頭のなかには色々と言い訳が浮かぶけれど、うまく言葉にはできなくて。

「も、もし嫌だったら持ち帰ります!」

 そんなふうに言って、とっさに彼に渡した紙袋に手を伸ばす。が、その手はパシッと楓の大きな手につかまえられてしまった。ギュッと握られ、冷えていた志桜の手が彼のぬくもりでじんわりと温まっていく。

「嫌なわけないだろう? 嬉しいよ、ありがとう」

 至近距離で眼差しがぶつかる。時が止まったように感じられて、胸が甘く切なく疼いた。

(まだ帰りたくない。もう少しだけ、楓さんと一緒に……)

 その思いがあふれて、彼に届いてしまったのだろうか。楓は少し恥ずかしそうに笑って言う。

「君さえよければ、今からこれをうちで一緒に食べないか? いい紅茶もある」