悪女な私とは婚約破棄してください。なのに、冷徹社長の猛愛からは逃げられない

 数字のミスそのものは誰が原因だって構わない。けれど、愛奈の発したいくつかの台詞がどうしても心に引っかかる。

『箱入りのお嬢さま』『目立つ仕事が好きなので』 

 あきらかな悪口とは言い切れないかもしれない。が、確実に志桜の印象をさげる言葉だ。
おまけに事実無根の真っ赤な嘘。ことビジネスにおいて、彼女は世間知らずなお嬢さまではないし、仕事の華やかな部分だけを享受する軽薄な人間でもない。

(普段から、人前で志桜をあんなふうに評しているのだろうか?)

 実は楓はKAMURO社内で志桜の評判があまりよくないことを、少し前に雄大から聞いて知っていた。雄大が何度か会話しただけの先方の受付の女性と親しくなり、仕入れてきた情報だった。
 どうしてだろうかと不思議に思っていたが、志桜の気づかないところでも愛奈がああいった印象操作を行っていたのだとしたら?
 そんなふうに考えているところに、ノックの音が響き、雄大が入室してきた。

「一応、ご報告しておきますね。蘭ちゃんから電話で聞いたんですけど」
「蘭ちゃん?」

 なじみのない名を楓が聞き返すと、雄大は飄々と答える。

「あっ、KAMUROの新入社員の子です。ほら、ちょっとギャルっぽい感じの」

 志桜が後輩だと言っていた女性の姿が、楓の脳内に浮かぶ。