悪女な私とは婚約破棄してください。なのに、冷徹社長の猛愛からは逃げられない

 そしてKAMUROに来店して自分の接客を受けたのでは? 志桜がそこを追及するより前に、彼は察したらしい。

「……そうか、サングラスか」

 しまったと言いたげに肩をすくめた。短くはない、沈黙が落ちる。気まずさに耐えかねて口を開くのは彼のほう。

「悪かった」

 言い訳を付け足さないところは彼らしいけれど、それくらいで志桜の怒りはおさまらない。

「半年前にサングラスで正体を隠した件は、百歩譲って許します」

 サングラスをかけるのは彼の自由だし、あれだけ会話をしたにもかかわらず、その相手が自身の婚約者だと思い至れなかった志桜にも責任はあるだろうから。

「ですが! 数日前、私がこの話題に触れたとき……正直に教えてくれなかったのは納得できません」

 考えてみれば、彼はあのとき妙に含みのある表情をしていたのだ。

(そういうことだったのね、どうして気づけなかったんだろう)

 本人を前にして『すごく素敵な方』などと言ってしまった恥ずかしさに、志桜は身悶える。

「意地悪です、いくらなんでも」

 志桜は唇をとがらせ、ツンと窓の外を向く。楓に対して、こんなふうに感情をあらわにするの初めてだ。でも、混乱と羞恥が抑えきれない。

「悪かった。もう二度としない」

 志桜は子どもみたいに、ますますむくれた。