悪女な私とは婚約破棄してください。なのに、冷徹社長の猛愛からは逃げられない

「あらためて、誘ってくださってありがとうございました。貴重な体験ができました」
「それはよかった」

 柔らかなその笑みに、胸が小さく跳ねた。彼が自分にこんな顔を見せる日がくるなど、五年前には想像もしていなかった。

『俺は終わりにしたくない』

 数日間に聞いた、いやに熱っぽかった声が耳に蘇って、志桜はかすかに頬を染める。
 楓が伝えてくれた思いに対して、自分はまだなんの答えも出せていない。思わせぶりな態度をとるつもりはないのだけれど、どう返事をしたらいいのか。いや、自分自身が彼との関係をどうしたいのか、ちっともわからないのだ。

(婚約を解消して、自立して生きていく。そう決意したはずなのに……)

 自分を引き止める、この感情はなんなのだろう。

「そろそろ出るか。今回はレンタカーだから、あまり乗り心地はよくないかもしれないが」

 今日は楓もそのまま飛行機に乗るから、サンフランシスコの空港まではレンタカーを使う。

「いえ、何度もドライバーをお願いしてしまって恐縮です」
「そんな小さなことまで気を使わなくていい」