悪女な私とは婚約破棄してください。なのに、冷徹社長の猛愛からは逃げられない

 おまけにスタッフの説明によると、この石は昼と夜で色を変えるらしい。その神秘性が、志桜によく似合うだろうなと想像する。
『出会いは一期一会』
 耳に蘇った彼女の声が楓の決断を後押ししてくれた。

* * *

 ベッドに横たえさせても、志桜が目覚める気配はない。あまり酒に強くないどころか、弱いといってもいいくらいだ。知れば知るほど、新しい顔を見せてくれる彼女。楓が選んだアレキサンドライトはまさに志桜のためにあるような宝石だ。

(絶対に似合う)

 そう確信しているが……あのネックレスが彼女の胸元を飾るところをこの目で拝める日ははたして来るのだろうか。
 白いスツールをベッド脇まで引き寄せてそこに腰かける。そして、彼女の寝顔を見つめた。
 起きているときよりあどけない印象だ。ふと気がついたら、見えない糸に引かれたように顔を近づけていた。楓の手が彼女の白い首筋を包み、唇が柔らかそうな頬に――。
 が、触れてしまう寸前に我に返った。

「バカなことを」

 苦笑交じりにこぼして、「ふー」と昂る熱を鎮めた。志桜を見つめる楓の瞳が暗く陰る。
 ひとりよがりな選択で彼女を傷つけた五年前と同様に、今も結局、自分は志桜を振り回しているだけなのかもしれない。