悪女な私とは婚約破棄してください。なのに、冷徹社長の猛愛からは逃げられない

「ずっと、自分は合理的な人間だと思っていた。感情でなにかを決断したことなど、これまで一度もなかったし……。だが、志桜といると心が乱れる。感情があふれて制御がきかない」

 いつもの氷の瞳が嘘のように、彼の目は情熱的に燃えていた。むき出しの思いがまっすぐに伝わってくる。彼にこんなにも熱い一面があるなど、想定外だった。
 冷たい大理石のテーブルの上に置いた志桜の手に、温かな彼のそれが重なる。ひと回り大きな手にギュッと包まれると、どうしようもなく胸が騒ぐ。

「今さら……という君の怒りはよくわかる。だがそれでも、今の俺は志桜を手放したくないと思ってる」

 心地のよいバリトンがさらに甘い熱を帯びて志桜の耳に届く。と同時に、そっと彼の手が離れた。

「――迷惑か?」

 迷惑です、そう言えばおそらく彼は引くだろう。わかっているのに、言葉は出てこない。うなずくことさえもできなかった。

(まるで告白みたい台詞……)

「きゅ、急に言われても気持ちが追いつきません」

 自分の頬が赤く染まっているような気がして、それをごまかすように志桜は空になっていたグラスにシャンパンを注ぐ。勢いよく飲み干すと、楓が慌てたようにこちらをのぞいた。

「そんなに飲みすぎると――」

 心配してくれる彼を、志桜は恨みがましい目で見返した。

(飲まなきゃやっていられない気分にさせたのは楓さんなのに!)

「大丈夫です。今すごく、飲みたい気分なので」

 多分、この時点で自分はすでに酔っ払っていたのだと思う。自身のアルコール許容範囲を忘れて、やけに早いペースでボトルの中身を減らしていった。