悪女な私とは婚約破棄してください。なのに、冷徹社長の猛愛からは逃げられない

 頭に浮かんだ台詞がそのまま口をついて出る。決して、彼を責めたいわけじゃない。けれど、驚きと呆れと怒りが入り交じった複雑な感情を隠しきるのも難しかった。
 五年前、まさに今の彼と同じ気持ちを志桜は抱いたのだ。政略結婚だけど、少しずつ互いを知って絆を育んでいけたら……と。

(その気持ちを粉々に砕いたのは、ほかならぬ楓さんだったじゃない)

「五年前に聞きたい言葉でした。あの頃なら私、飛びあがって喜んだと思います」

 かすかに震える声で率直な思いを絞り出す。
 楓は反論せずに最後まで聞いたあとで、ゆっくりと口を開いた。

「君の言い分はもっともだ。ごまかしても仕方ないから白状すると、俺には……君と結婚する気がなかった」

 そうだろうと薄々察してはいた。けれど、本人の口からはっきり宣言されると……過去の自分のみじめさが浮き彫りになっていたたまれない。

(二十五歳になったら。あの言葉にすがっていた私があまりにもかわいそうだ)

 楓はなにも偽らず真実を淡々と話す。

「両家のビジネスにとって利のある縁組だというのは理解した。ふたりの兄は当時すでに既婚者だったから、自分しかいないという点も。ただ俺には結婚願望がなかったし、なによりも」

 そこで彼は顔をあげ志桜を見た。