悪女な私とは婚約破棄してください。なのに、冷徹社長の猛愛からは逃げられない

「ルウさえあれば、いつでも簡単に作れますよ。野菜はレンジでチンしてから鍋に入れれば、そう時間もかかりません」

 自炊をすすめる志桜に彼は苦笑を返す。

「おっしゃるとおりだが、ひとりだとつい面倒でね……君はひとりでも料理するのか?」
「私は外食の店を探すほうを面倒に感じるタイプなので。かといって、いつも同じ店は飽きてしまいますし」

 お酒が入って互いにいつもより饒舌になっているとはいえ、彼との間で何気ない雑談が続いている。五年前の自分が知ったら、びっくりして目を白黒させるだろう。

(それにしてもオシャレなおうちだわ)

 周囲をぐるりと見回して志桜は「ほぅ」と感嘆の声を漏らす。決して華美ではないけれど、内装も調度も上質で洗練されている。日本人がイメージする海外セレブの邸宅そのものだ。
 ダイニングから続くリビングルームの白い壁には、大きな絵画が飾られている。夜空にお城が浮かぶ幻想的な絵だ。

「あの絵、素敵ですね」

 志桜の視線を追いかけるように、楓も軽く振り返る。

「いや、あれはパズルだ。ちょうど千ピースだったかな」
「千ピース? 楓さんが自分で組み立てたんですか?」