悪女な私とは婚約破棄してください。なのに、冷徹社長の猛愛からは逃げられない

「だが、鷹井の母には秘密にしておいてくれ。今の話を聞いたら……きっとショックを受けるだろうから。彼女のほうがずっと料理上手なのに」

 そのひと言で、鷹井の奥さまと彼の関係が良好であるのは察せられた。

「鷹井の母や兄たちには本当に感謝している。厄介者の愛人の子を家族として扱ってくれた。その恩に報いるためにも、俺は鷹井AIラボをもっと大きく成長させたい」

 夢を語る彼の瞳が少年のように輝く。

(皮肉ね)

 別れを決意した今になって、彼の内面に触れ、もっと知りたいと思ったりするなんて――。

 大理石のモダンなダイニングテールに並ぶのは、トマトとクリームチーズのカナッペ、西海岸らしいボリューム満点のコブサラダ、そして日本の定番カレー。
 自宅ディナーで運転を心配する必要もないので、楓がちょっといいシャンパンを出してくれた。本場シャンパーニュ地方のメゾンで、皇帝のために特別に作られた品なのだそう。
 向かい合わせに座ったふたりは、グラスを持ちあげて乾杯した。

「やっぱりうまい。懐かしいな」

 楓はカレーを本当においしそうに食べてくれる。この辺りのレストランで日本のカレーライスを食べるのは難しいだろうから、自炊を提案した甲斐もあった。