悪女な私とは婚約破棄してください。なのに、冷徹社長の猛愛からは逃げられない

 今度は志桜が目を瞬く。鷹井家の御曹司の好物が、一般家庭の食卓に並ぶようなカレーというのはやや意外だった。

「それならお安い御用です! ご自宅の近くにスーパーがありましたよね。寄ってもいいですか?」

 オシャレな異国のスーパーは見て回るだけでも楽しい。
 玉ねぎ、じゃがいも、にんじん、牛ロース。カレーに必要な材料はばっちり揃った。やや割高だったけれど、日本のカレールウをちゃんと置いてあった。
 帰宅するとすぐにキッチンを借りて、料理に取りかかる。

「手伝うよ」

 彼は副菜用のトマトを手に取り、シンクで洗ってくれる。が、料理に慣れていないのが見て取れる動きだ。

(あまり自炊はしないのかな? 忙しそうだものね)

「滞在費のつもりなので、楓さんは座っていてください」

 志桜はそう主張したが、彼は頑として譲らない。正直、カレーとあと数品程度なら手伝いはなくても大丈夫だが……彼の気持ちは嬉しかった。

(誰かとキッチンに立つなんて、お母さんが生きていた頃以来だなぁ。お父さんは仕事ひと筋で、家事はからきしだったから)

 母に料理を教わった子どもの頃を思い出して、志桜は頬を緩めた。
 グツグツと野菜が煮える音を聞きながら、志桜は他愛ない話題のつもりで彼に尋ねる。