悪女な私とは婚約破棄してください。なのに、冷徹社長の猛愛からは逃げられない

 外に出たら、もう夕方。茜に染まる夕焼け空も日本よりずっと大きく感じられた。
 カフェではケーキもスナックも注文しなかったので、ふたりとも少しおなかが減っていて、自然とディナーの話題になった。

「シリコンバレーの都市はハンバーガー屋ばかりで、観光客向けの店はあまり多くないんだが、まぁいくつかはオススメの店も……」
「では、もしよかったら、なにか作りましょうか?」

 自分はともかく彼はこちらに着いてもう一週間が過ぎている。外食にも飽きている頃なんじゃないか? そんなふうに思い、提案してみた。

「それにお家賃代わりに、多少は貢献しないと申し訳ない気分になるので」

 楓は驚いたように目をパチパチと瞬き、それから言った。

「料理が好きなのか?」
「わりと。母を早くに亡くしているので、レパートリーも結構ありますよ」

 特別に凝った料理は作らないが、普通の家庭料理なら得意なほうだ。

「楓さんはなにか好きなメニューがありますか?」

 彼は妙に真面目に考え込み、それから言う。

「カレーかな」
「スパイスカレーとかでしょうか?」

 わざわざリクエストするからには、特別なカレーなのだろうと思って聞いてみたが彼は首を横に振る。

「いや、市販のルーを使ったごく普通のやつだ」