桜散り始める4月。気候の変化により少しばかり寂しくなる桜模様を横目に私、春原 茉夕(すのはら まゆ)は校門を過ぎる。両隣には幼い頃から一緒にいる幼なじみの男の子。

「茉夕。足元気をつけてね」
「私もうそんなに転ばないよ?」

彼は倉持 翔真(くらもち しょうま)。真面目で優しい、両親がボディーガードを頼んでいる男の子。と言うのも私の家はいわゆる財閥と言われる家庭で、周りからはよくお金持ちと言われる。

そんな両親により仲が良いという家の息子さん達に私のボディーガードを頼んだらしい。その事を知ったのは中学生の頃。私と翔真、もう1人のボディーガードの男の子は小学生の頃からずっと一緒にいたのでそこまで深く考えた事も無かったけれど。

「あれ、雄真は?」
「先に行ったみたいだね」

そう言って肩をすくめる翔真。双子の弟の倉持 雄真(くらもち ゆうま)は、翔真と違って私の側にいつも居る訳ではない。中学生になると同時に私と距離を置くようになった。

先に行った雄真の話はすぐに終わり、翔真と一緒にクラス分けの掲示を見に行くとそこには3人の名前。本当はダメなんだろうけど過保護な父が校長先生に頼んで同じクラスにしてもらっているという噂を聞いた時は娘ながらドン引きしてしまった。

「2組か。どうやら1階にあるみたいだね、行こうか」
「……うん」

翔真は私の事を大事そうに扱う。今もこうして手を差し出して手を繋ぐように促している。拒否しても有無を言わさず手を繋いでくるから大人しく従っておく事にする。

校舎玄関で上履きに履き替えて翔真と廊下を歩く。しばらく歩くと扉の上に【1年2組】と書かれたクラス表示を見つけて中に入る。そこには既に登校していた雄真が居た。

「遅せぇよ」
「口が悪いよ、雄真」

翔真が注意しても雄真はそっぽを向くばかりで聞いていない様子。溜め息を吐きながら自分の席を確認すると、翔真は雄真の前の席で私は翔真の隣となっていた。どうやら窓側から五十音順になっているようだった。2人はか行で私はさ行。それだけで納得できる並びではあるけれど。

「翔真、私達前の席みたい」
「だろうね。ほら、どうぞ」
「ありがとう」

声をかけると翔真が優しく笑いかけながら椅子を引いて座るように促される。もう慣れてしまったのでお礼を言って座ると、後ろから視線が突き刺さった。恐る恐る後ろを確認すると、とんでもない表情で私達を見る雄真がそこに居た。

え、何?怖いんだけど。しかし翔真は気にしていないようで、私が座った事を確認すると席に着いた。

そこから私達の関係が変わり始めるとはまだこの時は少しも思っていなかった。