あれから三年が経った。
高校を卒業して、私は地元の大学へ進んだ。
時雨くんは大学へは行かず、家業の整備工場で働きながら、
今も黒焔の仲間たちをまとめている。
でも、暴走族だった頃みたいな“争い”はもうなくて、
今はただ、昔から続く仲間たちの集まりみたいなものになっていた。
穏やかで、優しい時間。
冷蔵庫から冷たい麦茶を取り出すと、
背後から腕がするりと回ってきて、腰を抱かれた。
「……雪菜、あったかい」
「だって今、お風呂上がりだから。
そっちこそ……くっつきすぎ」
振り返ると、時雨くんはタオルを肩にかけて、
濡れた前髪をそのままにしていた。
高校時代より背が伸びて、肩幅も広くて。
けれど瞳はあの頃と同じで――
私だけを見るみたいに深かった。
「なぁ、雪菜」
「うん?」
時雨くんは私の手から麦茶を取り上げ、
反対の手で頬に触れる。
その仕草が、優しいのに心臓にくる。
「……昔より、離れたくなくなってんだけど」
「……え?」
唐突で、胸の奥がきゅっとなる。
時雨くんは視線を落とし、少し照れたように笑う。
「高校の頃はさ……お前の“隣にいたい”くらいだった」
顔を上げると、真剣な目が私を捕まえた。
「今は、“未来ごと欲しい”って思ってる」
息が止まりそうになる。
時雨くんは、そっと私の左手を持ち上げた。
薬指に、まだ何もない場所。
「……いつか、ここにちゃんと指輪つけてもいい?」
静かな声だった。
焦りも無理もなくて。
ただ、まっすぐな想いだけがあった。
胸が熱くなる。
「時雨くん……」
涙が出そうになったけど、笑って答えた。
「うん。そんな未来、すごく……嬉しいよ」
その瞬間、時雨くんは一歩近づき、
私を強く抱きしめた。
背中にまわった腕が少し震えていて、
それだけで彼の気持ちが伝わる。
「……オレ、ずっと雪菜が好きだよ。
高校の時から、今の方がもっと」
「……私もだよ。
時雨くんの隣にいたい。
これからも……ずっと」
時雨くんの唇が、そっと私の額に触れた。
優しくて、深くて、未来を誓うキス。
窓の外では、夜風が揺れている。
あの日の騒がしさも、
涙も、恐怖も越えて――
今、私は時雨くんの腕の中で、
誰よりも幸せだった。



