初めて雪菜を見たのは、入学式の朝だった。

校門の前で人が多いのに、ひとりだけ視界が切り取られたみたいに見えるやつがいた。
白い肌に静かな目。
歩くたびに、空気が柔らかく揺れる。

――誰よりも綺麗だと思った。

気づいたら視線を奪われてて、
近づく前から、もう“欲しい”って思ってた。

名前を聞いたとき、胸の奥で何かが弾けた。

伊達雪菜。

伊達政宗の血を継いだ家。
そんなこと、本当はどうでもいい。
ただ、雪菜という存在が俺の世界を一瞬で塗り替えた。

話しかけてきた男がいたとき、
胸の奥がザワッとした。

(ああ、嫌だ)

自分でも引くほどの独占欲だった。
雪菜が笑うのを、他の男に見せたくなかった。

「雪菜、こっち来い」

理由なんてなかった。
ただ、離したくなかった。



その日から、俺は毎朝雪菜の家の前に立つようになった。

待つ理由?
そんなの決まってる。

雪菜に一番最初に触れるのは、俺だけでよかったから。

伊達家の門が開いて、雪菜が出てくる。

その瞬間、胸が熱くなる。

「雪菜は俺の未来だよ」

気づいたら、口から勝手に出ていた。

笑われるかと思ったのに、雪菜はただ…不思議そうに俺を見つめた。

(もっと欲しくなるだろ…)

こうやって俺の知らない雪菜に触れるたび、
少しずつ、離れられなくなっていった。



学校で雪菜に嫉妬した女子が嫌がらせをした日は、
本気でキレた。

「雪菜が泣くのは、俺の前だけでいい」

口にした瞬間、仲間にも空気が変わったのがわかった。

俺は総長だから、喧嘩も仕切りも誰より慣れてる。
でも、“雪菜のことになると”全部が変わる。

守るとかじゃない。

奪いたい。
独占したい。
俺だけのものにしたい。

そういう感情しか湧かなかった。



勉強を口実に雪菜を家に連れてきたとき。
ソファで休憩してたら、少し肩が触れただけで心臓が跳ねた。

雪菜の香り。
近い距離。
ふにゃっと俺に寄ってくる柔らかさ。

全部、雪菜だけのもの。

「……帰すの、やだ」

玄関で言葉が漏れたとき、
雪菜は頬を赤くして俯いた。

あの瞬間、
“もう逃がさねぇ”って思った。



海デート。
水着の雪菜を見た瞬間、本気で息が止まった。

(ヤバい、可愛い……俺以外に見せるな)

パーカーを羽織らせたのは反射だった。

海の中で腰を抱いたとき、
雪菜が俺に触れた感触が、今でも残ってる。

あれは反則だ。
俺の独占欲が壊れる。

「雪菜、好きだ。
 ……誰よりも、誰よりも」

あれはもう、告白とかじゃなかった。

宣言だ。

雪菜は「好きだよ」って返してくれた。
その瞬間、
世界が反転した。

(ああ……雪菜は俺のものだ)



でも平和は長く続かねぇ。

狼牙の襲撃。
雪菜が攫われたと聞いた瞬間、
心臓を握りつぶされるみたいな痛みが走った。

“奪われる”という言葉が、頭の中でぐるぐる回った。

救出したとき、雪菜の震えた手を掴んだ瞬間、
もう離せなかった。

腕を回して胸に抱き寄せ、
雪菜の体温を確かめる。

「……良かった。生きてる」

声が震えたのは、自分でも初めてだった。

黒焔も狼牙も全部どうでもいい。
雪菜がいない世界のほうが怖かった。

アジトに戻ってソファに座った瞬間、
雪菜を抱き込んでしまった。

「離れんなよ……
 雪菜がいねぇと、俺……壊れそうになる」

あれが本音だ。

甘えとかじゃない。

依存。
狂気。
雪菜だけが俺の世界。

そして雪菜は、俺の背中に腕を回して言った。

「……いるよ。ずっと」

その言葉で、
俺は本当に救われた。

雪菜の存在は、
俺にとって鎖じゃない。

“生きていく意味そのもの”だ。

――俺は、雪菜を離さない。
誰が敵でも、何が来ても。
雪菜は俺の未来で、俺の全てだ。

この先どうなろうが、
雪菜が隣にいる限り、
俺は何度でも戦える。

全部奪われても、世界が変わっても。
雪菜だけは守り続ける。

だってもう決まってる。

雪菜は、俺の女だ。
俺の唯一で、俺の全てだ。

――この先も、何があっても。