夏休みが終わった朝。
涼しい風が吹いて、蝉の声も少し小さくなっていた。
(今日から、また学校……)
けれど寂しさより、時雨くんに会う嬉しさが勝ってしまう。
玄関を開けると——
「雪菜」
「時雨くん……!」
伊達家の前で、いつもと同じように待っていた。
夏休み中ほとんど会っていたのに、胸が跳ねる。
「おはよう。……行こ」
「うん」
歩き始めてすぐだった。
そっと並んだ手が触れた。
ほんの一瞬、指先がかすめただけ。
(……あ)
そのまま、お互い自然に指を絡めた。
“繋いでいい?”なんて言葉はいらなかった。
夏休みに何度も触れた手の温度は、
もう離れる方が不自然に思えるくらい馴染んでいる。
「……やっぱ、雪菜の手あったけぇな」
「時雨くんこそ」
ふたりとも少し照れてるのに、誰も離そうとしない。
校門が見えると、周囲がざわつく。
「え、手つないでる……?」
「夏休み、なんかあったのかな」
「伊達さん、絶対狙われるじゃん……」
いろんな声が聞こえる。
(やっぱり、噂になっちゃうよね……)
でも時雨くんは平然としていて、
私の手を離すどころか、むしろほんの少し強く握った。
「雪菜。気にすんな。
離す理由、ねぇし」
「……うん」
それだけで胸の不安がふっと消えていく。
*
教室に近づくと、時雨くんがふいに私を引き寄せた。
手は繋いだまま、体が軽くぶつかる。
「夏休み終わっても、俺らは変わんねぇよ」
「変わらないね……」
「むしろ……もっと好きになってる」
「っ……!」
手を繋いだまま言うなんて反則だ。
廊下の女子たちがひそひそと話す。
「え、あんな顔……織田って伊達さんにだけ優しいよね」
「いや距離近っ……かわいいんだけど」
その視線も、時雨くんには届かない。
「見んなよ、こっち」
小さく呟いた声は、低くて独占欲で満ちていた。
——夏休みが終わっても
手の温度も、距離も、気持ちも。
どれも深くなっていた。



