教国の郊外、再建された月骸の聖壇の控室――――。
「はい、陛下! 配信開始しますよ!」
リリィの小さな羽が、苛立ちを表すようにパタパタと激しく羽ばたく。ゴーレムアイの横で浮遊しながら、その愛らしいほっぺたをこれでもかというほど膨らませて、マオを睨みつけていた。
「おいおい、勝負で勝ったのは余だからな? ちゃんと協力してもらうぞ」
マオは勝ち誇った笑みを浮かべる。
「あんな不意打ち、認めませんからねっ!」
リリィの声が、怒りでオクターブ上がった。
「卑怯者! 詐欺師! ペテン師!」
「勝負をなめとるからだ。はっはっは!」
マオの豪快な笑い声が、控室に響き渡る。
「まっ、いいですけど?」
リリィは唇を尖らせながらも、ため息をついた。
「世界が消えちゃ困るのは、こっちも同じだし……」
その小さな肩が、諦めたように落ちる。
「悪いが知恵を貸してくれ」
マオは急に真剣な表情になった。
「余はイノベーションなんて、さっぱりだからな。はっはっは!」
リリィはふんっと鼻で嗤う。
「では……」
突然、リリィの瞳に悪戯っぽい光が宿った。
「『スーパーマオ爆誕! みんなで撃ち落とせ!』という配信からリスタートね。くふふふ……」
「へ?」
マオの笑顔が凍りつく。
「『撃ち落とせ』……?」
顔を上げ、愕然とした表情でリリィを見つめる。
「はい! もう放映開始でーーす!!」
リリィは悪魔のような笑みを浮かべながら、容赦なくカウントダウンを始める。
「五、四、三……」
「おい! ちょっと待て!」
マオは慌てて手を振るが、リリィは完全に無視。
「くぅぅぅ……やられた……」
まさかこんな形で意趣返しをしてくるとは。マオは天を仰ぎ、深い絶望のため息をついた。
「ハーイ、皆さん!」
リリィの声が、急に明るく弾む。
「あのマオちゃんがパワーアップして戻ってきましたよぉ!」
カメラに向かって、満面の笑みでウインク。
「今日は『スーパーマオ爆誕! みんなで撃ち落とせ!』ということで、みんなで空を飛ぶマオちゃんを撃墜しちゃいましょう!」
うぉぉぉぉ!
パブリックビューイング会場が、一瞬で熱狂の渦に包まれた。
「無事、撃墜した人には、なんと――」
リリィは勿体ぶるように間を置く。
「百万ゴールドが送られます!」
うぉぉぉぉ! ひゃっくまん! ひゃっくまん!
会場が、文字通り爆発した。
前回にも増して多くの観客が詰めかけ、熱気で空気が歪んで見えるほど。それぞれの手には弓矢、魔法の杖、魔銃――ありとあらゆる飛び道具が握られ、誰もがマオ撃墜にやる気満々だった。
「ルールは簡単!」
リリィが楽しそうに説明を続ける。
「マオちゃんが会場上空をクルクルと飛びますので、弓でも魔法でもなんでもいいので撃ち落としちゃってください! 撃ち落とせた人には百万ゴールドですからねっ!」
おぉぉぉ!
歓声が、地響きのように会場を揺らす。
「では、マオちゃんの登場でーす!」
マオはムッとした表情で、恨みがましくリリィを睨む。
(陛下! 何してるんですか! バンバン飛んじゃってください!)
念話でリリィが急かす。
(お主、謀ったな……)
(何のことです?)
リリィの声に、悪戯っぽい響きが混じる。
(一番盛り上がる企画にしただけですよ? くふふふ……)
「しょうがない……」
マオは諦めたようにブスッとした顔で、角材にまたがる。そして――。
ふわっと重力から解放され、優雅に浮き上がる。
控室から一気に加速し、流星のように会場上空へ飛び出した。
〔おぉぉぉ!〕
〔キターーーー!〕
〔マオはワシが育てた!〕
〔マオちゃん無事だった! よかったぁぁぁ〕
〔天使にやられたかと思った!〕
前回、謎の天使と激闘を繰り広げて消えてしまったマオ。視聴者たちは、本気で心配していたらしい。コメント欄が、安堵と歓喜で埋め尽くされていく。
「ふははは!」
マオは不敵に笑い、挑発的に叫ぶ。
「こっこまでおいでー!」
角材を巧みに操り、一気に加速。会場上空を、まるで踊るようにぐるりと旋回する。
次の瞬間――。
ドドドドド!
会場から、雨あられと攻撃が殺到した。
火の玉が尾を引いて飛び、氷の槍が空を切り、風の刃が唸りを上げる。しかし、マオは信じがたい角材さばきで、ひらりひらりと全てをかわしていく。
「そんな攻撃では当たらんぞ! ふははは!」
急上昇、急降下、きりもみ回転――マオは楽しそうに会場を煽りながら、まるでエアショーのような華麗な飛行を披露する。
と、その時だった。
ステージの上に、神々しい光と共に一人の女性が現れた。
聖女エリザベータ。
純白のローブが、風もないのに優雅にたなびく。
彼女は微笑みながら、軽やかに舞いを披露し始めた。
うぉぉぉ!
予想外の聖女の登場に、会場の熱狂が頂点に達する。
「ほう?」
マオは興味深そうに眉を上げた。
「何をするのだ?」
好奇心に引かれ、聖女に近づいていく。
その瞬間――。
「百万ゴールド!!」
聖女の瞳が、ギラリと光った。
バシュッ!
神聖魔法の光の矢が、容赦なくマオに向かって放たれる。
「うわぁ!」
完全に不意を突かれ、マオは慌てて身を捻る。
しかし聖女は、まるで機関銃のように、次から次へと光の矢を連射してきた。
「エリザベータ! お前もか!!」
マオは必死に回避機動を取る。
だが、このチャンスを逃すまいと、会場からも集中砲火が始まった。
火の玉、氷の槍、雷の鞭――ありとあらゆる攻撃が、マオに向かって殺到する。
「ぐはぁぁ!」
必死に避けるマオだったが、群衆の中に知った魔力の波動を感じた。
経理担当のボーンズ? あれは部隊長のオーク……むむっ、四天王も全員揃っているではないか!!
(リリス! なぜ魔王軍の連中が居るのだ?!)
(盛り上げのためですよ! 盛り上げ! 陛下ならよけられるでしょ? うっしっし!)
(貴様……うわっ! あぶない!)
さすがに四天王の攻撃は鋭く、攻撃を一身に浴びてしまう。
「ぐほぁぁぁ!」
煙を上げながら、マオは重力に引かれて真っ逆さまに墜落していく。
地面激突まであと数メートル――。
ギリギリのところで体勢を立て直し、地面すれすれを滑空。そして一気に、ロケットのように高度を上げていく。
ボロボロになったピンクのドレスが、風に激しくはためく。
「おーまーえーらーー!」
上空で、マオの瞳に本物の怒りの炎が宿った。
天に向かって、腕を高々と振り上げる。
「天誅!」
刹那――。
ゴゴゴゴゴ……。
空が、まるで墨を流したように真っ黒に染まった。
巨大な雲が、渦を巻きながら湧き出してくる。それは、まるで神の怒りが形を成したかのような、恐ろしい光景だった。
そして、その黒雲が一気に会場目がけて降下してくる。
「へ?」
「なんだぁ?」
「何か落ちてくるぞ!」
会場が、困惑と恐怖で騒然となる。
次の瞬間――。
ポトン、ポトン、ポトポトポト……。
雹のような何かが、無数に降り注ぎ始めた。
それは――。
ふわふわのマシュマロだった。
赤、青、黄色、ピンク、緑――色とりどりの、宝石のように美しいマシュマロが、まるで天国からの贈り物のように降り注ぐ。
瞬く間に、会場全体が甘い香りに包まれていく。バニラ、イチゴ、レモン、ミント――様々な香りが混ざり合い、まるでお菓子の国に迷い込んだような幸せな空間が生まれた。
「ぐははは!」
マオが高らかに笑う。
「マオからのプレゼントだ! 美味しく召し上がれなのだ!」
恐る恐る口に運んだ人々の顔が、一瞬で至福の表情に変わる。
「うぉぉぉ!」
「美味い! 美味いぞー!」
「なんだこれは! 天国の味だ!」
甘い食べ物など滅多に口にできないこの世界で、マシュマロの優しい甘さは、瞬時に人々の心を虜にした。
みんな我先にと空に手を伸ばし、降り注ぐマシュマロを奪い合うように集めていく。まるで子供になったようにみんな夢中になっている。
「どうだ?」
マオは誇らしげに胸を張る。
「これが食のイノベーションだ!」
「うぉぉぉ! マオちゃーん! 最高!」
「愛してる!」
「神様だ! マオちゃんは神様だ!」
歓声が、津波のように押し寄せる。
「ハーイ! タイムアップです! 今回もマオちゃんは無事に百万ゴールドを守り抜きました! では最後にマオちゃんの決めポーズですよっ!」
リリィは意地悪な笑みを浮かべながらノリノリで言った。
(おいおい、もう決めポーズは要らんだろ?)
マオはムッとした表情でステージのリリィをにらむ。
(なーに言ってるんですか! 私のディレクションには従っていただかないと困ります!)
(くぅぅぅ……、失敗した……)
マオは渋い顔でゆっくりとステージに向かって降下していく。
クルクルッ!
華麗に空中で三回転。
タンッ!
完璧な着地。
そして――。
横にしたVサインを、キラリと目元に持ってくる。
決めポーズと共にウインク――――。
『みんな、愛してる~♪』
ただ、表情はひたすら嫌そうなままであった。
うぉぉぉぉぉぉ!
会場が、文字通り爆発した。
割れんばかりの歓声。飛び交う無数のスパチャ。マシュマロを頬張りながら涙を流す人々。
この瞬間、マオは新たな伝説を築き上げた。
魔王からトップ配信者へ。
破壊者からイノベーションを起こす創造者へ。
こうして、ポンコツ魔王と策士の熾天使による、前代未聞のイノベーションの旅が始まった。
笑いと歓声の絶えない世界。
毎日が祭りのような、活気に満ちた日々。
それはやがて宇宙中の評判を呼び、「奇跡の星」として語り継がれることになる。
かつて世界を恐怖で支配しようとした魔王は、今、世界を笑顔で満たし、未来を紡ぐ存在となったのだ。
ただ――――。
今はそんなことを考えることもなく、マオはただ、降り注ぐ色鮮やかなマシュマロの中で幸せそうに人々の笑顔を見守っていた。
【了】
あとがき ~次回作のお知らせ~
「というわけで、無事に完結だ! 読んでくれた者たちよ、感謝するぞ!」
『陛下、ちゃんとお辞儀してください! 配信者としての礼儀ですよ!』
「う、うむ……こ、こうか?」
『……まあ、60点ですね』
「厳しいな!?」
『それより陛下、大事なお知らせがあるでしょう?』
「おお、そうであった! 実はな、余の物語が終わった後――新たな英雄譚が始まるのだ!」
『次回作のタイトルは――』
【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!?
~戦闘力ゼロの追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と送る甘々ライフ~
「戦闘力ゼロの追放軍師……だと?」
『はい! 恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた主人公が――』
「なんと! 余よりも不憫ではないか!」
『陛下は自業自得でしたけどね?』
「うっ……」
『でも彼は絶望の底で【運命鑑定】という神スキルに目覚めるんです。未来が視えるチート能力ですよ!』
「ほう……それは羨ましいな。余も財政破綻する未来が視えていれば……」
『視えても浪費してたと思いますけど』
「否定できん! はっはっは!」
『それでですね、主人公のレオンくんは、世界に見捨てられた四人の訳あり美少女たちと出会うんです』
「訳あり……か」
『復讐に燃える黒髪剣士、腹黒聖女、ツンデレ魔法少女、男装令嬢――みんな傷だらけで、誰にも才能を認められなかった子たちです』
「……ふむ」
『でもレオンくんの【運命鑑定】は見抜くんですよ。彼女たちの潜在能力は――全員SSS級だって』
「おお! それは熱いではないか!」
『追放された無能が、誰も気づかなかった才能を見出して、最強パーティを作り上げていく――爽快ざまぁ&美少女育成&成り上がりファンタジーです!』
「なるほど……余の物語が『魔王が美少女になって成り上がる話』なら、こちらは『落ちこぼれが美少女たちを最強に導く話』というわけか」
『そうです! しかも四人全員がヒロインで、好感度カンストのハーレム展開ですよ? くふふ……』
「ハーレム……余には縁のない話だな」
『陛下にはスパチャがありますから』
「金か! 結局金なのか!」
『愛よりお金、これ配信者の基本です♪』
「お主、本当に天使か……?」
『というわけで皆さん! 次回作もよろしくお願いしますね!』
「うむ! 余たちの物語を楽しんでくれた者なら、きっと気に入るはずだ!」
『裏切りからの逆転劇、訳あり美少女たちとの絆、そして――』
「「爽快な成り上がり!」」
『次回作でお会いしましょう!』
「……ところでリリィよ、余の出番はあるのか?」
『さあ? 作者次第じゃないですか?』
「なんと!? 余を出せ! スパチャコラボするのだ!」
『はいはい、それではまた~♪』
▶ 次回作はこちらから!
https://www.berrys-cafe.jp/book/n1769201
「はい、陛下! 配信開始しますよ!」
リリィの小さな羽が、苛立ちを表すようにパタパタと激しく羽ばたく。ゴーレムアイの横で浮遊しながら、その愛らしいほっぺたをこれでもかというほど膨らませて、マオを睨みつけていた。
「おいおい、勝負で勝ったのは余だからな? ちゃんと協力してもらうぞ」
マオは勝ち誇った笑みを浮かべる。
「あんな不意打ち、認めませんからねっ!」
リリィの声が、怒りでオクターブ上がった。
「卑怯者! 詐欺師! ペテン師!」
「勝負をなめとるからだ。はっはっは!」
マオの豪快な笑い声が、控室に響き渡る。
「まっ、いいですけど?」
リリィは唇を尖らせながらも、ため息をついた。
「世界が消えちゃ困るのは、こっちも同じだし……」
その小さな肩が、諦めたように落ちる。
「悪いが知恵を貸してくれ」
マオは急に真剣な表情になった。
「余はイノベーションなんて、さっぱりだからな。はっはっは!」
リリィはふんっと鼻で嗤う。
「では……」
突然、リリィの瞳に悪戯っぽい光が宿った。
「『スーパーマオ爆誕! みんなで撃ち落とせ!』という配信からリスタートね。くふふふ……」
「へ?」
マオの笑顔が凍りつく。
「『撃ち落とせ』……?」
顔を上げ、愕然とした表情でリリィを見つめる。
「はい! もう放映開始でーーす!!」
リリィは悪魔のような笑みを浮かべながら、容赦なくカウントダウンを始める。
「五、四、三……」
「おい! ちょっと待て!」
マオは慌てて手を振るが、リリィは完全に無視。
「くぅぅぅ……やられた……」
まさかこんな形で意趣返しをしてくるとは。マオは天を仰ぎ、深い絶望のため息をついた。
「ハーイ、皆さん!」
リリィの声が、急に明るく弾む。
「あのマオちゃんがパワーアップして戻ってきましたよぉ!」
カメラに向かって、満面の笑みでウインク。
「今日は『スーパーマオ爆誕! みんなで撃ち落とせ!』ということで、みんなで空を飛ぶマオちゃんを撃墜しちゃいましょう!」
うぉぉぉぉ!
パブリックビューイング会場が、一瞬で熱狂の渦に包まれた。
「無事、撃墜した人には、なんと――」
リリィは勿体ぶるように間を置く。
「百万ゴールドが送られます!」
うぉぉぉぉ! ひゃっくまん! ひゃっくまん!
会場が、文字通り爆発した。
前回にも増して多くの観客が詰めかけ、熱気で空気が歪んで見えるほど。それぞれの手には弓矢、魔法の杖、魔銃――ありとあらゆる飛び道具が握られ、誰もがマオ撃墜にやる気満々だった。
「ルールは簡単!」
リリィが楽しそうに説明を続ける。
「マオちゃんが会場上空をクルクルと飛びますので、弓でも魔法でもなんでもいいので撃ち落としちゃってください! 撃ち落とせた人には百万ゴールドですからねっ!」
おぉぉぉ!
歓声が、地響きのように会場を揺らす。
「では、マオちゃんの登場でーす!」
マオはムッとした表情で、恨みがましくリリィを睨む。
(陛下! 何してるんですか! バンバン飛んじゃってください!)
念話でリリィが急かす。
(お主、謀ったな……)
(何のことです?)
リリィの声に、悪戯っぽい響きが混じる。
(一番盛り上がる企画にしただけですよ? くふふふ……)
「しょうがない……」
マオは諦めたようにブスッとした顔で、角材にまたがる。そして――。
ふわっと重力から解放され、優雅に浮き上がる。
控室から一気に加速し、流星のように会場上空へ飛び出した。
〔おぉぉぉ!〕
〔キターーーー!〕
〔マオはワシが育てた!〕
〔マオちゃん無事だった! よかったぁぁぁ〕
〔天使にやられたかと思った!〕
前回、謎の天使と激闘を繰り広げて消えてしまったマオ。視聴者たちは、本気で心配していたらしい。コメント欄が、安堵と歓喜で埋め尽くされていく。
「ふははは!」
マオは不敵に笑い、挑発的に叫ぶ。
「こっこまでおいでー!」
角材を巧みに操り、一気に加速。会場上空を、まるで踊るようにぐるりと旋回する。
次の瞬間――。
ドドドドド!
会場から、雨あられと攻撃が殺到した。
火の玉が尾を引いて飛び、氷の槍が空を切り、風の刃が唸りを上げる。しかし、マオは信じがたい角材さばきで、ひらりひらりと全てをかわしていく。
「そんな攻撃では当たらんぞ! ふははは!」
急上昇、急降下、きりもみ回転――マオは楽しそうに会場を煽りながら、まるでエアショーのような華麗な飛行を披露する。
と、その時だった。
ステージの上に、神々しい光と共に一人の女性が現れた。
聖女エリザベータ。
純白のローブが、風もないのに優雅にたなびく。
彼女は微笑みながら、軽やかに舞いを披露し始めた。
うぉぉぉ!
予想外の聖女の登場に、会場の熱狂が頂点に達する。
「ほう?」
マオは興味深そうに眉を上げた。
「何をするのだ?」
好奇心に引かれ、聖女に近づいていく。
その瞬間――。
「百万ゴールド!!」
聖女の瞳が、ギラリと光った。
バシュッ!
神聖魔法の光の矢が、容赦なくマオに向かって放たれる。
「うわぁ!」
完全に不意を突かれ、マオは慌てて身を捻る。
しかし聖女は、まるで機関銃のように、次から次へと光の矢を連射してきた。
「エリザベータ! お前もか!!」
マオは必死に回避機動を取る。
だが、このチャンスを逃すまいと、会場からも集中砲火が始まった。
火の玉、氷の槍、雷の鞭――ありとあらゆる攻撃が、マオに向かって殺到する。
「ぐはぁぁ!」
必死に避けるマオだったが、群衆の中に知った魔力の波動を感じた。
経理担当のボーンズ? あれは部隊長のオーク……むむっ、四天王も全員揃っているではないか!!
(リリス! なぜ魔王軍の連中が居るのだ?!)
(盛り上げのためですよ! 盛り上げ! 陛下ならよけられるでしょ? うっしっし!)
(貴様……うわっ! あぶない!)
さすがに四天王の攻撃は鋭く、攻撃を一身に浴びてしまう。
「ぐほぁぁぁ!」
煙を上げながら、マオは重力に引かれて真っ逆さまに墜落していく。
地面激突まであと数メートル――。
ギリギリのところで体勢を立て直し、地面すれすれを滑空。そして一気に、ロケットのように高度を上げていく。
ボロボロになったピンクのドレスが、風に激しくはためく。
「おーまーえーらーー!」
上空で、マオの瞳に本物の怒りの炎が宿った。
天に向かって、腕を高々と振り上げる。
「天誅!」
刹那――。
ゴゴゴゴゴ……。
空が、まるで墨を流したように真っ黒に染まった。
巨大な雲が、渦を巻きながら湧き出してくる。それは、まるで神の怒りが形を成したかのような、恐ろしい光景だった。
そして、その黒雲が一気に会場目がけて降下してくる。
「へ?」
「なんだぁ?」
「何か落ちてくるぞ!」
会場が、困惑と恐怖で騒然となる。
次の瞬間――。
ポトン、ポトン、ポトポトポト……。
雹のような何かが、無数に降り注ぎ始めた。
それは――。
ふわふわのマシュマロだった。
赤、青、黄色、ピンク、緑――色とりどりの、宝石のように美しいマシュマロが、まるで天国からの贈り物のように降り注ぐ。
瞬く間に、会場全体が甘い香りに包まれていく。バニラ、イチゴ、レモン、ミント――様々な香りが混ざり合い、まるでお菓子の国に迷い込んだような幸せな空間が生まれた。
「ぐははは!」
マオが高らかに笑う。
「マオからのプレゼントだ! 美味しく召し上がれなのだ!」
恐る恐る口に運んだ人々の顔が、一瞬で至福の表情に変わる。
「うぉぉぉ!」
「美味い! 美味いぞー!」
「なんだこれは! 天国の味だ!」
甘い食べ物など滅多に口にできないこの世界で、マシュマロの優しい甘さは、瞬時に人々の心を虜にした。
みんな我先にと空に手を伸ばし、降り注ぐマシュマロを奪い合うように集めていく。まるで子供になったようにみんな夢中になっている。
「どうだ?」
マオは誇らしげに胸を張る。
「これが食のイノベーションだ!」
「うぉぉぉ! マオちゃーん! 最高!」
「愛してる!」
「神様だ! マオちゃんは神様だ!」
歓声が、津波のように押し寄せる。
「ハーイ! タイムアップです! 今回もマオちゃんは無事に百万ゴールドを守り抜きました! では最後にマオちゃんの決めポーズですよっ!」
リリィは意地悪な笑みを浮かべながらノリノリで言った。
(おいおい、もう決めポーズは要らんだろ?)
マオはムッとした表情でステージのリリィをにらむ。
(なーに言ってるんですか! 私のディレクションには従っていただかないと困ります!)
(くぅぅぅ……、失敗した……)
マオは渋い顔でゆっくりとステージに向かって降下していく。
クルクルッ!
華麗に空中で三回転。
タンッ!
完璧な着地。
そして――。
横にしたVサインを、キラリと目元に持ってくる。
決めポーズと共にウインク――――。
『みんな、愛してる~♪』
ただ、表情はひたすら嫌そうなままであった。
うぉぉぉぉぉぉ!
会場が、文字通り爆発した。
割れんばかりの歓声。飛び交う無数のスパチャ。マシュマロを頬張りながら涙を流す人々。
この瞬間、マオは新たな伝説を築き上げた。
魔王からトップ配信者へ。
破壊者からイノベーションを起こす創造者へ。
こうして、ポンコツ魔王と策士の熾天使による、前代未聞のイノベーションの旅が始まった。
笑いと歓声の絶えない世界。
毎日が祭りのような、活気に満ちた日々。
それはやがて宇宙中の評判を呼び、「奇跡の星」として語り継がれることになる。
かつて世界を恐怖で支配しようとした魔王は、今、世界を笑顔で満たし、未来を紡ぐ存在となったのだ。
ただ――――。
今はそんなことを考えることもなく、マオはただ、降り注ぐ色鮮やかなマシュマロの中で幸せそうに人々の笑顔を見守っていた。
【了】
あとがき ~次回作のお知らせ~
「というわけで、無事に完結だ! 読んでくれた者たちよ、感謝するぞ!」
『陛下、ちゃんとお辞儀してください! 配信者としての礼儀ですよ!』
「う、うむ……こ、こうか?」
『……まあ、60点ですね』
「厳しいな!?」
『それより陛下、大事なお知らせがあるでしょう?』
「おお、そうであった! 実はな、余の物語が終わった後――新たな英雄譚が始まるのだ!」
『次回作のタイトルは――』
【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!?
~戦闘力ゼロの追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と送る甘々ライフ~
「戦闘力ゼロの追放軍師……だと?」
『はい! 恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた主人公が――』
「なんと! 余よりも不憫ではないか!」
『陛下は自業自得でしたけどね?』
「うっ……」
『でも彼は絶望の底で【運命鑑定】という神スキルに目覚めるんです。未来が視えるチート能力ですよ!』
「ほう……それは羨ましいな。余も財政破綻する未来が視えていれば……」
『視えても浪費してたと思いますけど』
「否定できん! はっはっは!」
『それでですね、主人公のレオンくんは、世界に見捨てられた四人の訳あり美少女たちと出会うんです』
「訳あり……か」
『復讐に燃える黒髪剣士、腹黒聖女、ツンデレ魔法少女、男装令嬢――みんな傷だらけで、誰にも才能を認められなかった子たちです』
「……ふむ」
『でもレオンくんの【運命鑑定】は見抜くんですよ。彼女たちの潜在能力は――全員SSS級だって』
「おお! それは熱いではないか!」
『追放された無能が、誰も気づかなかった才能を見出して、最強パーティを作り上げていく――爽快ざまぁ&美少女育成&成り上がりファンタジーです!』
「なるほど……余の物語が『魔王が美少女になって成り上がる話』なら、こちらは『落ちこぼれが美少女たちを最強に導く話』というわけか」
『そうです! しかも四人全員がヒロインで、好感度カンストのハーレム展開ですよ? くふふ……』
「ハーレム……余には縁のない話だな」
『陛下にはスパチャがありますから』
「金か! 結局金なのか!」
『愛よりお金、これ配信者の基本です♪』
「お主、本当に天使か……?」
『というわけで皆さん! 次回作もよろしくお願いしますね!』
「うむ! 余たちの物語を楽しんでくれた者なら、きっと気に入るはずだ!」
『裏切りからの逆転劇、訳あり美少女たちとの絆、そして――』
「「爽快な成り上がり!」」
『次回作でお会いしましょう!』
「……ところでリリィよ、余の出番はあるのか?」
『さあ? 作者次第じゃないですか?』
「なんと!? 余を出せ! スパチャコラボするのだ!」
『はいはい、それではまた~♪』
▶ 次回作はこちらから!
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